スタイルチェンジ #2

 

   作戦も何もない。早起きした一花は、いつもの喫茶店でフラペチーノを味わいながら状況を整理する。まず大前提として妹たちがいる学校から風太郎を遠ざけないと、二人きりの時間は作れないのだ。

 もっと風太郎と二人きりの時間を過ごしたい。両思いになって、恋人らしいことをたくさんしたい。そのためには、一花のその気持ちを風太郎に知ってもらう必要がある。

 現状、五つ子の中で風太郎と二人きりでいる時間が最も多いのは間違いなく二乃だ。二乃は風太郎と同じバイト先で働いている以上、勉強会以外にも放課後のアルバイトで風太郎と二人きりの時間がある。一花も毎日ではないが女優の仕事があるため、彼と二人きりでいる時間を少しでも稼ぐには登校前のこの時間をうまく使うしかない。

   しかし、こうも何度も抜け出して風太郎の元に行っていることは、そろそろ妹たちに勘付かれてもおかしくはないだろう。当然といえば当然なのだが、未だに二乃の視線は鋭い。ゆえに、勝負は早い方がいいというのが一花の結論だ。今日一日で告白とまではいかなくても、好意をより知ってもらうために、勇気を振り絞って彼に直球勝負を挑む。


   風太郎を学校から遠ざけるには、やはり学校に行かないようにしてもらうしかない。前回は考えもなしに勢いで提案して失敗したが、今回は一花にも少なからず勝算がある。妨害に徹している一花だが、自分の好意を意識してもらうためにまったく何もしなかったわけではない。誕生日には風太郎の妹をうまく利用して、好感度を稼ぐことに成功したのだ。

 好意があることを知られている以上、少なからずその行動には意味があるのだと思ってくれていると信じたい。家族旅行で偶然あった時も、二乃と話す時は明らかに動揺していたのだから。


(……こわい……全然、落ち着けない……)


   大好きなフラペチーノを堪能している至福の時だというのに、心は平静ではいられない。一花の心は不安でいっぱいだった。

 もし風太郎に拒絶されてしまったら、一花は自分がどうなってしまうのか想像もつかない。林間学校の時は彼に踊るのをやめようと言われただけで泣いてしまったのだ。あの時より一花の風太郎への想いは強くなっているのだから、それ以上のダメージを受けることは間違いないであろう。


(……ダメダメ、今は目先のことだけを考えないと。……もうそろそろかな。いつも通り、いつも通り……)


   恐怖心も不安も大きくはあるが、それでも一花は戦う。誰にも、風太郎の隣は渡したくない。

   そろそろ彼が喫茶店を通過する時間だろう。飲み終えたフラペチーノを捨てて喫茶店を出る。臆病な自分を振り切って、一花は何気ない様子で話しかける。

 

 


   普段通りを装いながら勇気を振り絞ってみたが、結果的に風太郎は黙ってしまった。風太郎の心がわからない。嫌われるのは嫌だけど、私だけを見てほしいという一花のジレンマ。不安と独占欲の板挟みになり、一花の胸は苦しくなる。


(やっぱ……ダメだよね)


   悩みに悩んだ末、一花は出し抜くことを諦めることに決めた。風太郎に嫌われることはなんとしても避けたい。そんなことになったら、立ち直れる勇気はもう湧いてこないかもしれないという自信のなさからの結論だ。

   発言の撤回をして謝れば、まだ間に合うかもしれない。嘘つきの一花ではあるが、日々の活動で少しは女優として成長できている自覚はある。今度こそ彼を騙せる笑顔で───

 

 


「待てよ」


「午前中……いや、いい!  バイトもないし、今日一日お前にくれてやるさ」


「お前が人一倍努力しているのはよくわかっている。学年末試験だって一番の成績だし、模試だって良かったもんな。それだけじゃなく……俺はお前に、たくさん助けられた。教師としてだけじゃなく、その……友達として、本当に感謝している。だから今日だけ……特別だぞ」

 

 


(……やった)


   どんな心境の変化があったのか一花にはわからないが、最終的に彼はわがままを聞いてくれた。不安でいっぱいだったこともあって嬉しさが溢れ出してしまい、思わず抱きついてしまった。テンションの落ち着いた今はひとまず移動中である。

   しかし、時間が経つにつれて、一花の心中は穏やかから程遠いものとなった。ある疑問が頭から離れず、心をざわつかせている。

 

 


   ……どうして?

 


   どうして、そんなに優しいの?

 

 


   一花は答えを理解している。それは、中野一花という少女が五つ子の長女だからだ。


 一花の中で風太郎を騙しているということが、心を痛めていた。確かにかつては長女として姉らしくあると決めた。同じ血が流れている大切な末っ子の、あんな悲しい姿はもう見たくはない。今でもその決意は胸に残っている。

   だが、今の一花は違う。愛しい彼を手に入れるために妹の良心や姿すら利用し、自分だけを見てもらうために思考の限りを尽くす、客観的に見てもただの悪女のような立ち振る舞いをしている、嫌な女なのだ。風太郎はそんな一花の黒い本性を知らないからこそ、一花のことを褒めてくれたのである。そこは、絶対に履き違えてはいけない。


(奇跡的にうまくいったけど……こんな女だって知ったら、フータロー君、どう思うかな。良い顔、するわけないよね)


   一花は自分の独占欲が非常に強いことを自覚している。彼が他の子の話をしているだけで暗い気分になってしまうほどの嫉妬心を抱えており、本当に我ながら自己中心的だと思っている。

   さらに嫉妬だけに飽き足らず、妹たちの言葉を自分に都合良く解釈して、徹底的に妨害に走っている。それで結果的に姉妹の仲が悪くなったとしても、彼を手に入れるためなら致し方ないと一花は割り切れてしまう。所詮恋は戦争で、風太郎はひとりしかいない。遠慮していては自分が蹴落とされてしまうのだ。ゆえに、このやり方で戦うことに躊躇いはない。


 だけど、本当にそれでいいのだろうか。

   こんな卑怯なやり方で、風太郎は振り向いてくれるのだろうか。そもそも、彼は五つ子の仲が悪くなることを望んでいるだろうか。


   そんなの、絶対に望んでなんていない。

   思い出して。彼の目標、望み。それは───

 


   私たち五人が、揃って笑顔で卒業すること。

 


   それは、幾度となく聞いてきた彼の初志貫徹の意志といえるものだ。いくら生徒と先生の関係で満足できなくても、先生のその気持ちを蔑ろにすることは許されないと一花は思う。

   ゆえに、少女たちが仲良し五つ子でいることは絶対条件なのだ。どれだけ成績に問題がなくても仲が悪くなって笑顔がなくなってしまったら、彼は悲しんでしまうだろう。


(私はフータロー君が、ほしい……だけど、フータロー君の目標は……)


   しかし、だからといって一花は彼を独り占めしたいという気持ちを抑えることはできない。自分の欲望を正当化するのはどうかと思うけど、二乃も三玖もそう思っているのだから。この恋だけは誰にも譲れない。またしてもジレンマの発生だ。

   なら、どうすればいいのだろう。自分が彼を独り占めしつつ、全員が仲良しでいるという、一花に都合の良い世界を作るためには。


(独りよがりじゃダメ。ちゃんと、フータロー君のことも考えた上で、私が幸せになるには)


 そんなの、たったひとつしかない。風太郎に一花自身を、友達としてでも生徒としてでもなく、恋人として好きになってもらうのだ。そして、きちんと妹たち全員に二人の仲を認めさせ、彼を手にいれることを諦めさせてみせる。それが風太郎の望みを叶えつつ、自分が幸せになれる唯一のハッピーエンドだ。

   自分の恋は自分が幸せにならなければ意味がないと言う、妹の言葉を思い出す。だから遠慮はいらない。すでに宣戦布告だってしたのだ。ゆえに、一花も自分の幸せのために正々堂々戦える。

   自分を好きになってもらう何かを探すという、妹の言葉を思い出す。彼女はとても優しくて、今の性格の悪い自分とは正反対だと一花は思う。そんな自分に、彼が好きになってくれるような魅力はあるのだろうか。


(だけど、私とフータロー君だって……)


   しかし早くもひとつ、今回の直球勝負で一花は収穫を得ることができた。それは、風太郎は一花のことを信頼してくれているということだ。無論、一花だけではなく妹たちにも当てはまることなのは百も承知である。しかし、一花と風太郎には妹たちにはないある共通点がある。

   それが、一花と風太郎が同じ一番上の兄妹であるということだ。彼は恥ずかしがりながらも一花の今までの長女としての立ち振る舞いを褒めてくれた。おそらく長男として妹を大切に思う彼にも、理解できる部分があったのかも知れない。生徒と教師でもあるけれど、長女と長男でもある一花と風太郎。二人にしかわからないものが確かにあると一花は確信していた。ちゃんと長女してんな、と頭を撫でてくれた時の記憶は今でも鮮明に思い出せる。これが、上杉風太郎が見つけてくれた、中野一花の魅力なのだ。


(私が性悪なのは変わらない。だけど、フータロー君はお姉ちゃんとしての私を認めて、褒めてくれた。なら、もう間違えない!  変装なんて、言葉の変化球なんて、私には必要ない!)


   一花は今まで自分が長女としてやってきたことが少し報われた気がして、嬉しい気持ちになる。嘘をついている事実は変わらなくても、今ならまだ間に合うはずだ。彼からの信頼だけは絶対に裏切りたくない。


(だから私、もっと頑張らないとだよね)


   愛する人の為に、一花は風太郎が理想とする自分になることを決意した。彼の優しさに甘えるだけではいけない。一花自身、人として、姉としてもっと成長する必要がある。そうでなければ、妹たちは認めてくれない。

   立派な嘘つきだって褒めてくれた。だから、女優としてもっと輝いてみせる。

   仕事と勉強の両立を褒めてくれた。だから、勉強だってもっと必死でやる。姉妹で一番の成績は当然。それだけでは足りない。全国三位の彼に少しでも追いつけるように。

   本当に単純だと理解はしているが、風太郎の言葉のおかげで信頼されているという自信を持つことができたのだ。それだけで、一花が戦う理由には十分すぎた。


   隣で、学校に欠席の連絡を入れている彼を見つめる。想いが、昂る。

   風太郎がくれた今日という一日を、絶対に無駄にするわけにはいかない。積極的に、大胆に攻めていく。中野一花という少女がただの生徒でも長女でもなく「女」だということを、風太郎の身体にも心にも容赦なく刻みつけてみせる。

 

 


   少女の心は目まぐるしく回る。妹を思う長女から、愛しい彼を求める女へと。変わる心に、少女自身がついていけそうになくなる。


   でも、置いていかれるつもりは毛頭ない。変わる心についていきたい。そして、いつかは君の隣で。五等分なんて認めない。

 

 


   彼の花嫁は、私だけだ。

 

 

「ふう……緊張したな。仮病なんて高校生活で初めてだぜ」

「おつかれさまっ。私も四葉に急な仕事入ったって連絡しといたし、これで完璧だね!」


   風太郎は学校に、一花は学校と四葉に欠席の連絡を入れ終わり、ついでに変装用の眼鏡も装着し、お互いに戦闘準備万端。

   ただ、現在の時刻は午前8時25分。比較的朝早い時間ということもあって開店前のお店も多い。

   そんな事情もあり、風太郎と一花は一花の行きつけの喫茶店まで戻り、コーヒーブレイクを過ごしながら今日一日の流れを決めることにした。

    しかし店内に入ったは良いものの、風太郎は苦いものは苦手でコーヒーを飲むことができない。だが注文しないわけにもいかないので、一番安いショートサイズのコーヒーでも頼もうと考えていたところ、一花が話しかけてきた。


「フータロー君、私奢るから大丈夫だよ。そもそも、コーヒー飲めないでしょ?」

「そうだが、しかし……」

「いいのいいの、私にまかせてっ」


   そう言ってレジに向かった一花は注文をテキパキと済ませ、飲み物を持ち風太郎を連れて近くの椅子に着席する。そして、一花は買ってきた飲み物を風太郎に手渡した。


「はいっ、どーぞ」

「お、おう。だけど俺……」

「大丈夫。私の飲んでるフラペチーノはたくさん種類があって、中には甘いのもあるしフータロー君も飲めると思うの。飲めなかったら私が飲むから、気にしなくていいよ。ま、まぁ、無理強いはできないけど……」


   断ろうとしたが、風太郎は以前一花が差し入れとしてくれたコーヒーを断ってしまった経験があることを思い出した。普段はおちゃらけている一花ではあるが、心から人の嫌がることをするような人間ではないことは風太郎は理解している。風太郎が見る限り、一花が手渡したフラペチーノとやらは一面白銀の世界で、コーヒーの色など見当たらない。これなら、飲めるだろうか。


「わかった。せっかくだし、少しもらう」

「いいよいいよっ!召し上がれっ」


   意を決して、風太郎はゆっくりとフラペチーノを口にする。

   果たして、そのお味は──


「ん、意外とイケるな。ていうかこれほとんどバニラじゃねぇか。これなら俺でも飲めそうだ」

「ホントに!?  やったー!!  コーヒーの苦味が無いのを選んだ甲斐あったよ!」


   これでもかというくらいに一花は喜んでいて、キャラにそぐわないガッツポーズまでしている。周りの目も気にもならない子供のような一花のはしゃぎように、風太郎は呆れてしまう。


「そんなに嬉しがるようなことかよ……」

「もっちろん!  こんなに嬉しいことはなかなかないよ!」


   すっかり興奮しきった表情で一花は言う。まさしくその様子は目がキラキラしていると表現が当てはまる。

   しかし風太郎からすれば奢ってもらっているのに喜ばれるという意味のわからない状況になっているため、戸惑うのは当然といえる。そうこうしているうちに一花は少し落ち着いたのか、少し緊張している様子を見せてきた。そして、風太郎の顔色を伺うように控えめに提案を持ちかけてくる。


「その……フータロー君。よかったら、私のも飲んでみない?  こっちも甘いし、美味しいよ?  あと、私もフータロー君の、飲んでみたいんだけど……いい?」

「お前がいいんならもらうわ。あと、俺のも全然いいぞ。お前がくれたものなんだからな」

「ウソっ……ホントっ!?  じゃ、じゃあ、どうぞ……あと、ありがとね」


   思わずどっちなんだよとツッコミたくなるような愉快な反応をする一花。しかし飲ませたい気持ちが強いのか、白をベースにした赤混じりのマーブル模様のフラペチーノを手渡してくる。朴念仁&鈍感の風太郎の辞書に間接キスなどという言葉はなく、ごく自然に一花からフラペチーノを受け取る。

   ちなみに当然のように一花はドキドキしており、自分が口をつけたストローに風太郎が口をつける瞬間を見逃すまいと、目をギラギラさせていた。そんな恋する乙女の熱い眼差しに気づくことなく、風太郎は一花のフラペチーノを口にする。


「むっ、見たとおりこいつはストロベリーか。しかし本当に甘いな。普通に飲めるし、美味しいぞ。ほら、俺のも飲む……一花?」

「……むふふふふふ……」

「お前マジでさっきからどうしたんだよ……」

「えー?  なんでもないよー?  それじゃ私も、フータロー君がくれたの、飲んじゃおっと。……んー!  あまーい!  でも最高!…………ヤバい、たまんないんだけど。むふふっ」


   気味の悪い笑みを浮かべている一花。完全にニヤニヤを隠しきれておらず、その様子に風太郎は軽く引いている。しかしそんな風太郎の怪訝な視線もどこ吹く風といった様子で、一花は嬉しそうにつぶやいた。


「えへへ、フータロー君と好きなものを共有できちゃった。……ホント、嬉しいなぁ。飲みたかったらいつでも、なんならこれから毎朝お姉さんが奢ってあげるからね」

「毎日もいらん。気持ちだけ受け取っておく」


   完全に浮かれきっているようで、風太郎からすると少し心配になる発言が目立つ。このテンションに付き合うのは骨が折れる。どうにかクールダウンしてくれないかと思い一花の方を向くと、何か思いついた様子で風太郎に話しかけてきた。


「そういえばフータロー君、らいはちゃんにもう何かプレゼント、買ってあげたの?」

「ん……あぁ、あのギフトカードか。いや、まだだ。せっかくだし服あたりをプレゼントしようと考えているんだが、いかんせん知識もなくてな」

「なるほどー。だったら、お姉さんが一緒に選んであげよっか?」

「……いいのか?」

「うんうん!  らいはちゃん可愛いしなんでも似合うと思うけど、私でよかったらお手伝いさせてほしいな」

「助かる。ありがとな」

「どういたしまして。じゃあ程よい時間になったら、ショッピングモール向かおっか」

「おう、いいぞ」


   ひとまず午前の予定が決まったが、まだショッピングモールの専門店の開店までは時間がある。話題の引き出しが決して豊富ではない風太郎はどう時間を潰そうかと考え始めたところ、一花から予想外のお願いが飛んできた。


「フータロー君。よかったらでいいんだけど、まだお店開くまで時間あるからさ。その間国語教えてもらえないかな?」

「……どうしたいきなり。熱でもあんのか」

「ううん、そういうんじゃないよ。私、国語が一番点数低いからさ。苦手な教科も安定した点数を取れるようになれば、私も家庭教師の時間はみんなに教える側に入って、私自身の学力が上がるだけじゃなくって、フータロー君の負担が減ることにも繋がると思うの」

「確かにその通りだな。俺にとってもありがたい話だ」

「だから、そのためにっていっちゃなんだけど……一週間……ううん、二週間に一回とかで全然いい。こうして、二人っきりで勉強教えてくれない?もちろん今回みたいにサボりとかじゃなくって、放課後とか空いてる時間でいいし、その時間は私が給料出すから」

「断る理由なんざねえよ。それにお金もいらん。お前たちの父親から給料ももらえるようになったし、それに……教師として、勉強に前向きに取り組もうとしてる生徒のお願いを無下にはしないさ」

「……ありがとう。でも、無理はしないでね。私のわがままなんだし、フータロー君にだって自分の時間があるんだから」


   鈍感さに定評のある風太郎だが、確信できたことがある。一花は二人きりで自分と話がしたい、一緒にいたいと思っているからサボろうなどと言い出したのだと。そして仮病で学校を休むという行為こそ不真面目ではあれど、彼女は決して気分が乗らないから提案した、ということではないのだと。

   でなければ、学校をサボった日に好き好んで勉強を教えて、なんて言わないはずだ。一花だけに限らず、もともとは勉強嫌いの彼女たちなのである。前向きに勉強に取り組もうとする生徒の姿を見て、風太郎も嬉しくなる。

   ここまでモチベーションが上がってくれるのは風太郎としては願ったりかなったりなのだが、その理由を考えずにはいられない。やはりその背景には自分への好意があるからなのだろうか、と。

   ノートとシャーペンを取り出して、勉強を開始しようとしている少女を横目で見つめる。


(……こ、こいつはあくまで生徒兼友達だ。俺には恋愛なんてわからないし関係ない)


   学力は全国三位でも所詮恋愛は0点の風太郎。正解のわからない問題は後回しにし、意識を一花への授業へと切り替えた。

 

 


   現代文を教えて数十分。ふと風太郎はある疑問が浮かび、それを一花に問いかけてみた。


「しかしお前、古文漢文はともかく、現代文は点数高くてもおかしくなさそうなもんだけどな」

「えっ?  なんで?」

「なんでって、お前は女優だろ。台本だってすぐ覚えられるし、登場人物の心境だって台本読み込んで、頭に入れて演技してるんじゃないのか?」

「ま、まぁそうだけど……」

「俺には女優のことはよくわからんが、それでもお前の向上心の高さは知っているつもりだ。お前んとこの髭のおっさんも言ってたぞ、一花は幅広い役を演じられる女優だって」

「…………」

「だからそのうち点数は上がるだろ。前にも言ったが、お前は姉妹の中で一番器用で要領が良いんだ。俺が太鼓判を押してやる。だからもっと…………一花?」


   せっかくやる気になっているのだから、教師としてその向上心を讃え、さらに伸ばすことが大事だ。そうすることで、一花の更なるモチベーションアップにつながるだろうという風太郎の考えだったのだが、一花は眼鏡を外しペンを置いて、風太郎を見つめてきた。そして──

 

 


「もう、ホントに、優しいんだから……うんっ、嬉しいな。ありがとう……♡」

 

 


   上目遣いで風太郎に熱い視線を送る一花。ハートが映っているようにすら感じる見惚れてしまいそうなその瞳に、風太郎は心拍数が跳ね上がるのを感じた。黙っていてはからかわれると考え、目をそらしながらも慌てて言葉を発する。

 

「あ、あくまで教師……友達としてな!  生徒の成績を上げるためなら、教師として、友達として、俺にできることならやってやるさ!  さあ勉強だ!  お前に完璧に現代文を理解させてやるぞ!  覚悟しろ!」

「うん、頑張るっ!  私、絶対に先生の期待に応えてみせるね!」

「っ……!」


   満面の笑みの一花を見て、風太郎は悔しい気持ちでいっぱいになる。くどいと思われてもしかたのないレベルで義務感を主張しているというのに、なぜそんな満足気なのか。好意を抱いているのは一花の一方通行なはずなのに、なぜ自分が恥ずかしがらなければならないのか。

   このままやられっぱなしなのは気に食わない。そんな思いから風太郎は、一花の最大の弱点を狙うことにした。


「よーし、じゃあ宿題だ。映画『呪いのリプライ』での登場人物、タマコちゃんの心境の変化を50字程度でまとめてこい」

「!?  ちょっと、もー!  それは恥ずかしいからやめてー!  あれはみんなにも話してないんだからー!」


   効果は抜群だ。恥ずかしさで顔を赤くする一花を見て、風太郎はしてやったりといった笑みを浮かべた。しかし、これだけでは満足しない。ふと店内の時計を見ると、勉強を教えているうちにすでにデパートの開店時間は過ぎていたことに気づく。これは好都合だ。


「おっと、ぼちぼち時間だな。移動しようぜ」

「ええっ、もう時間なの!?  うっ、ホントだ……わかったよ……」

 

   慌てて眼鏡を装着して支度を開始する一花。落ち着きを取り戻す暇なんざ与えない。自覚はなくとも教師の心を乱した仕返しだ。逆襲に成功した風太郎は勝利の余韻に浸っていた。

   しかしそんな風太郎の考えとは裏腹に、自分の言葉のせいで一花の心のセンサーは警報を鳴らし続け、彼女の大胆さに拍車をかけるトリガーとなってしまったことを、少年はまだ知らない。

 

 

 

 

「ごめんね。おまたせー」

 


   らいはへのプレゼントを購入し終え、化粧室から戻ってきた一花を風太郎は出迎える。デパートへ移動しているうちに一花は落ち着きを取り戻したのか、到着した後も普通に世間話などをしながら二人は買い物を愉しんだ。

   移動しようと風太郎が化粧室に繋がる通路のベンチから立ち上がったところ、またしても一花からのお願いが飛んできた。


「あのね、フータロー君。私もちょっと見たいものがあるんだけど、時間いいかな?」

「ああ、構わないが……ちょっと待て。何を、見るつもりなんだ?」


   風太郎は背筋が寒くなるのを感じた。気づけば一花は先程までの友達としての柔和な表情ではなく、打って変わって妖艶さを醸し出した笑みを浮かべている。嫌な予感が止まらない。一花はゆっくり風太郎の隣に歩み寄り、耳元で囁く。

 

 

 


「し・た・ぎ♡  フータロー君に、私にどんなのが似合うのか、選んでほしいな♡」

 

 

 


   本当に毎度毎度心臓に悪い。もはやこの少女は上杉風太郎という男の心を弄ぶことを生きがいに感じているようにすら思える。声のトーンは小さいのに話す内容の破壊力があまりにも強力で、風太郎はいつもの冷静な返答ができなくなってしまう。


「な、何言ってんだお前は!  痴女か!」

「これくらい友達なら普通だよ!  私、こうやって気軽に相談できる男友達なんてフータロー君しかいないから……お願い!」

「五月といいたまに暴走するなお前ら!  友達相手でもすることじゃねぇ!  もうちょっと男を警戒しろよ!」

「フータロー君のこと信頼してるもん!」

「ぐっ……いや、その手には乗らねえぞ!  そもそもお前は人気者なんだから、俺以外にも男友達なんざいくらでもいるだろ!」

「……!」


   一花の表情が真剣なものに変わる。たった今駄々をこねていた時にしていた五つ子特有の、愛くるしさすら感じる頬を膨らませた表情とは180度違う。目まぐるしく変化する一花の表情に、風太郎は動揺を隠せない。

   そして、その隙を見逃す一花ではない。眼鏡を外して風太郎に詰め寄り、通路の壁際に追い詰めて、右手を壁に勢いよく当てた。

 

 


   一花の十八番である、壁ドンの炸裂である。

 

 


「私、他の人には決してこんなこと言わないよ。フータロー君以外の男の人なんて、そんなの絶対にありえない」

 

   その眼差しは、とても強く。


「君と一緒に、たくさんの時間を過ごして」


   少女の髪の香りを感じるほどの、至近距離で。


「いろんな困難を一緒に乗り越えて、絆と信頼を築くことができて」


   言葉からも、溢れるばかりの強さが滲み出ていて。


「そうして接していくなかで、私が姉としてでも生徒としてでもなく、ひとりの女として唯一、全てを晒け出せると確信できた男の子。それが、フータロー君。この世でただひとり、君だけなんだよ。だから───お願い」


   それらが合わさった少女のありったけの想いを、少年は真正面から受け止めることとなった。


   風太郎にとって通算三度目の壁ドンではあるが、以前までとは比べものにならない破壊力である。そもそも一花からの好意を知らなかったのだからドキドキする要素も皆無だったのだが、今はもう完全にダメだ。捕球準備もままならない状態の風太郎が受けれるはずもなかった。

   お願いの内容に対し表情と言葉は真剣そのもので、その雰囲気に風太郎は気圧されてしまう。それでいてここまで強い信頼を寄せられてしまっては、もはや風太郎に断るという選択肢はなかった。


「……わかったよ。せめて手短に済ませてくれ」

「やったー!  ありがとねっ、フータロー君!」

「っ……」


   壁から手を放し、天使のような微笑みをみせる一花。両手で拳を握りながらファイトのポーズを作っていて、嬉しさが滲み出ている。もう今までで散々見慣れた笑顔のはずなのに、なぜか直視することができない。

   風太郎は自分の心に問いかける。一体自分はどうしてしまったのか。自分への好意を知っているからといって、そんなことで甘やかすような人間ではなかった。

   ただ一つだけ確かなことは、一花のあの眩しい笑顔を見ると、何も言えなくなってしまうということだ。


「さすがに下着売り場で待ってて、なんて言わないから安心して。ベンチで座ってていいよ。私が気に入ったの選び終わったらメールするから、そしたら来てねっ」

「……ああ。さっさと行ってこい」


   手を振りながら一花が立ち去っていく。しかし、風太郎の心臓の鼓動はまだ落ち着かない。おそらく顔も耳まで真っ赤だったのだろう。二乃にもっと自分のことを知ってほしいと告げられた時と同等か、あるいはそれ以上に。愛の告白というわけではないだろうが、一花の真剣な想いはこれでもかというほどに伝わった。

   まだ今日という一日は半分も終わっていないというのに、こんな調子では午後はどうなってしまうのか。不安を感じないわけではないが、不思議と不快感はない。風太郎は顔を両手で二回叩き、気持ちを切り替える。


(今日一日はあいつのわがままを聞いてやると決めたんだ。最後まで付き合ってやるか)

 

   現在午前10時30分。おそらく普段通りであれば二限が終わろうという時間。

   斯くして、ここに第一次下着戦争の火蓋が切って落とされた。

 

 

 

 

「じゃーん!  こちらの二点になりまーす!」


   前言撤回である。今すぐ回れ右して帰りたい。すっかりご機嫌な一花は、二週類の色違いの上下一式の下着を風太郎に提示してきた。早くも白旗を上げてこの場を離れたいと考えている風太郎のテンションとは対照的だ。


「どんなでもいいけど、ちゃんと選んだ理由を教えてね。テキトーとかなんとなくとか、そういうのはなしだよ!」

「マジかよ……」


   予想はできていたが釘を刺されてしまった。心が折れそうだが今日一日行動を共にする以上逃げるという選択肢もない。

   右手に白の下着、左手に薄いピンクの下着を持って、一花はにこやかな表情を浮かべている。いくら女性に関心のない風太郎でもさすがに下着の直視はハードルが高いため、せめて目線は合わせても顔だけは若干そらしているという、かなり苦しい状態だ。

   そんな状態ではあるが観察してみると、白の下着には黒色の蝶や花柄の刺繍がいたるところについていることに気づき、その大胆なデザインに思わず目を奪われそうになる。俗に言う勝負下着、とはこういうものなのだろうかと風太郎は感じた。

   一方でピンクの方は、縁飾りがあしらわれている程度の刺繍などのないシンプルなデザインで、白の下着と比べると控えめで大胆というよりは可愛いという印象である。どちらにしても風太郎には十分に目に毒であることに変わりない。


   明らかに正反対な印象を与える二種の下着。これらと向き合わなくてはいけない事実を前にして、風太郎は頭が痛くなるのを自覚した。

   本当に悩ましい。一花の普段の雰囲気や立ち振る舞いを考えると、確実に白の下着の方がイメージに合っている。同じ顔でも未だにお子様パンツの四葉がこの下着を着用したところで、風太郎には無理しているようにしか思わないだろう。

   しかし、だからといって安易に白を選んでいいものなのだろうか。素人の風太郎でも大胆だと感じるデザインなのだ。その後のオチは容易に想像できる。間違いなくフータロー君も男の子なんだねー、などとからかわれて、恥ずかしい思いをするに決まっている。

   かといって逃げでピンクを選んでしまうのは、自分の考えを見破られた上で選んだ、ということがバレそうな気がしてしまう。中野一花という少女は勉強こそ苦手だが、長女として振る舞う中で培われた洞察力はかなりのものだと風太郎は認識している。取り繕った答えは見抜かれてしまうだろう。


「ふっふふーん♪  フータロー君、まだかな、まだかな〜♪」

「ぐっ……!」


   ニヤニヤしながら目の前で煽ってくる一花を睨みつけてやろうかと考えたが、それでは動揺しているのがあからさまになってしまう。さらに一花の方を向こうとすると自然と下着が風太郎の視界に入ってしまうため、結局身動きが取れない状態だ。

   風太郎の頭の中は、もはやどうすれば自分へのダメージを減らしてこの局面を乗り切れるのか、ということでいっぱいだった。しかし──


(ちくしょう、正解がわからねぇ……!)


   いったいどうすればいいのか。どちらを選んでも自分の心に多大な負荷をかけることになりそうで、風太郎は頭を抱えそうになる。そんな時、ふとある言葉が風太郎の頭に思い浮かんだ。

 

 


『もっと自然に言えばいいんだよ。それでもコツはいるけどね』

 

 


   それは林間学校でのキャンプファイヤーでの準備中に教わったアドバイス。かつて五つ子との関係に悩んでいた風太郎に、一花が教えてくれたコミュニケーションの方法だ。

   一花の場合は確かそれに加えて、私にも優しくして、と言っていただろうか。それを活用できる状況かと言われると違うような気がするが、心に余裕のない風太郎は今はどんなものであれ縋りたい気分だった。

   男である以上、当然風太郎にも意地がある。女に、生徒にナメられるわけにはいかない。


(……いいだろう。やってやろうじゃねぇか!  素直に、一花に似合うやつを……!)


   覚悟を決めた風太郎の目の色が変わる。適当に答えるのではなく、優しさを考慮しつつしっかりと考え、素直に自分の言葉で下着の魅力を伝える。

   嫌だと突き放すだけなら簡単だ。しかし、あえてそうはしない。一花の魂胆はどうあれ、あれほどの真剣な想いをぶつけられて、男として逃げ出すのはどうなのか。ここらで一発、硬派な一面をみせる必要があると風太郎は判断した。

   そうして、決意を固めた風太郎が選ぶ下着は──

 

 


「白の下着だ。俺はその方がお前に似合っていると思う」

 

 


「えっ……こっち?  ふ、ふーん。フータロー君、意外とこういうのが好きなんだ。てっきり私、ピンクの方選ぶと思ってたよ。さてさて、その心は?」

   一花からすると風太郎の選択は予想外だったようで、一瞬驚いたような表情をみせる。しかしすぐに余裕を感じる挑発的な笑みへと変化した。風太郎は胸に軽く手を当てて、一息つく。俺の好みというわけではないと否定したかったのだが、ここでムキになってしまっては一花の思うツボだ。落ち着いて、素直に真正面から下着の魅力を伝えていく。

「えっとだな、白の方には黒の蝶や花柄の刺繍が入ってるだろ。せっかくお前の名前にも花の漢字が入ってるんだから、俺はその方がお前の大人な雰囲気とも合わさって、いいんじゃないかと思ったんだ」

「えっ……?」

「正直なところ、ピンクだって似合うと思う。あくまで、中野一花という女には大人なデザインのある白の下着の方がより似合うと思っただけだ。その……なんていうかだな、女優の仕事をしっかりこなしてるお前なら、似合う似合わないは関係なくて、どんな服も下着も、着こなせるような女になれると、俺、は……」


   ここまで伝えて、風太郎のメンタルは限界を迎えた。

   いざ尋常に話し始めたはいいものの、次第に学校をサボってやっていることが教え子の下着鑑定とはどういうことなのかだとか、それについて熱弁している自分はなんなのかなどといった羞恥心が湧き上がってしまい、発言は弱々しいものになっていった。そもそも最後まで一花の目を見て話すことができていたかどうかすら風太郎には自信がない。


(こんな思いするなら、言うんじゃなかった……)


   羞恥と後悔が風太郎の心を蝕む。やはりらしくないことをすべきではなかった。これは間違いなく笑われるだろうと予想し、せめてもの抵抗に思いっきり睨んでやろうかと一花の方を向くと───

 


   そこには、顔を完膚なきまでに紅潮させた一花の姿があった。耳まで完全に真っ赤である。

 


(へ……?)


   これはいったいどういうことなのか。完全にからかわれるものだと思っていたがために、風太郎も鳩が豆鉄砲を食ったような顔になる。

   そのまま体感にして、10分以上経過していただろうか。現実には言葉を失っていたのは1分にも満たない程度だったのだが、ここにきてようやく一花が言葉を発する。


「え、えっと……その、ありがとう……」


   動揺を隠せないのか、一花の口調がゆったりとしたものになっている。どうやら余裕がないのは一花も同じのようで、ひとまず風太郎は安堵した。


「と、とりあえず買ってくるね。時間かかるから、さっきのベンチで待ってて」

「あ、あぁ……了解した」


   互いにたどたどしい言動が最後まで変わらないまま、二人は別々に移動を開始する。

   こうして、両者引き分けという結末で第一次下着戦争はここに終結した。

 

 

 

 

   レジへ向かうと言い訳して一花は早足で風太郎の前から立ち去り、風太郎の姿の見えないところですぐに立ち止まる。こんな顔を彼には見せられない。

   胸に手を当てて軽く深呼吸し多少の落ち着きを取り戻した一花は、自分の行動と風太郎の言葉を振り返る。


   誘うような甘い言葉からの、真剣な想いを乗せた壁ドン。風太郎の反応を見る限り、確かに効果はあったと一花は認識している。

   しかし、一花からしてみればどちらの下着が選ばれるかなんてどうでもよかった。こんなにも真剣に彼を思っていること。そして、女であることを意識してもらえれば、一花には十分だった。それは壁ドンの段階ですでに達成していたと言っていいだろう。


   本当に、それだけでよかったのに。


   風太郎は一花のことを考えて真剣に向き合って、自分の答えを出してくれたのだ。その事実が一花には、なによりも嬉しかった。思い出すと口元が緩んでしまう。真面目な顔の彼の言葉を聞いて顔が赤くなるのを止められるはずもなく、精々取り繕うのが精一杯だった。

   出会った当初の風太郎の性格ならば、くだらないと吐き捨ててそのまま一花を置いて帰っていた可能性も十分に考えられただろう。今回も、一般的な高校生男子とは性格や嗜好が大きくかけ離れている彼に対して、答えるにはかなり酷な問いを投げかけた自覚がある。正直、信頼されていると思えている今でも、途中で投げ出されても仕方がないと一花は思っていた。

   いくら信頼を重ねていても、相手に素直に自分の気持ちを表現することはとても勇気がいることだ。それでも、風太郎は前向きに、自分の言葉で伝えて選んでくれた。風太郎が自分のことを信頼してくれているという事実が自信になり、一花はいくらでも大胆になれる。本当に、自分が風太郎に心底メロメロなのだと改めて思い知る。


(ありがとう、フータロー君……)


   愛しの風太郎が自分のためだけに選んでくれたこの下着は、一花にとって宝物だ。今日以降自分と彼以外の人間が触れることすら許すつもりはない。これもまた、風太郎を誘惑するのに使えるだろう、と一花はほくそ笑む。

 すでに一花の次の風太郎攻略プランは構築済みだ。徹底的に誘惑に走り、風太郎をドキドキさせてみせる。そのための準備として、レジへ向かいお会計を済ませた一花は店員に要望を伝える。

 

 


「すみません。この下着、ここで着けていきたいんですけど、大丈夫ですか?」